上野の森でフェルメールに魅せられる

10月というのに異常に蒸し暑い三連休の中日に、上野の森美術館で開催されている「フェルメール展」を鑑賞した。

17世紀オランダ絵画黄金時代の巨匠ヨハネス・フェルメール(1632-1675)は、国内外で不動の人気を誇り、現存作品はわずか35点とも
言われているが、今回はそのうち8点が展示されており、日本美術展史上最大のフェルメール展となっている。

2008年に東京都美術館で開催された「フェルメール展」(当時は7点を展示)では93万人という来場者数を記録しただけに、展示数でそれを上回る本展には大きな注目が集まっているらしい。

10月7日11:00時の日時指定の前売りチケット(一般:2,500円)を購入して、当日10:30過ぎに現地に到着すると、何と美術館の前の公園を囲むように、清水観音堂の前あたりにまで延びる長い行列が目に飛び込んできた。

「え~、入場日時指定のチケット持ってるのに、こんなに並ぶのかよ~」

ちょっとげんなりした気分になったが、ここまで来て入場しないわけにもいかず、最後尾位置のサインを掲げた係員の指示に従って素直に行列に加わった。

かてて加えて運が悪いことにこの日は台風25号がもたらした暖かい空気と山越えのフェーン現象の影響で、真夏のような日光がギラギラと容赦なく照りつけてくる。
おまけに風が全く吹かないので、不快な事この上ない。

ふと時計を見ると10時50分、みんな灼熱の太陽の下、文句も言わず並んでいる。

「炎天下のなか、こんなに並んでいるんだから、ちょっとくらい入場時間早めたらいいのに。臨機応変に対応しろよ」と文句も言いたくなったが、美術館の入り口が早めに開く気配は一切ない。

あとからあとから来る人々が、行列の傍に立つ係員に同じことを聞いている。

「え~、こんなに並ぶの? いったい入場にどれくらいの時間がかかるんですか?」

そして係員も幾人の人々に向かって同じ返答を繰り返す。

「11時の入場チケットは、最終12時半まで入場可能です。もしよろしければ、どこかで時間をつぶしていただいて、12時過ぎくらいに再度来ていただいた方がスムーズに入場できると思います」

「ありゃ~、それほんと~?」

時刻は11時を過ぎミュージアムは開場され、行列の先頭がちんたらちんたら動き始めてから約15分でようやく入場できた。
入口でチケットをもぎられると、女優の石原さとみが努める展覧会のナビゲータと音声ガイドが聞けるイヤホン機器が一人一人に手渡される。

いよいよ鑑賞スタートである。

前半は肖像画、神話画と宗教画、風景画、静物画、風俗画など、フェルメールの作品以外に、同時代に活躍した画家の作品約40点を通じて、17世紀のオランダ絵画の広がりと独創性を紹介しているエリアを進む。

ウィットにあふれる情景を得意としたヤン・ステーン、穏やかな日常の風景を描くデ・ホーホ、室内の風俗を描いたハブリエル・メツーなどの作品を、入口で配布されたガイド冊子を見ながら作品の背景などを確認しつつ鑑賞する。

そして大トリは8点の作品を一堂に集めた「フェルメール・ルーム」。

部屋の中はけっこうな数の人がいるにもかかわらず、深い静謐に包まれている。

そして観る人すべてが魅入られたように、絵の前から動かない。
いや、おそらく動けないのだ。

そこにいる人がみな、作品の1点1点をゆっくりと噛みしめるように味わっているという感じがした。

そしてわたしも無意識のうちに、自分が17世紀のオランダの街に迷い込んだような錯覚に浸りながら、作品の一つ一つに出来うる限り
近づいて、その繊細なタッチの細部までを見届けようと目を凝らした。

今まで見てきた絵とは何か違う、光の魔術師フェルメールの色彩は、なぜだか妙に暖かく心が癒される感覚がある。

その理由については私程度の見識では皆目計り兼ねるが、只々穏やかにゆっくりと身体の中心から立ち昇ってくる感動に身震いしながら、私は時を忘れてこれらの作品の前になすすべもなく立ち尽くすしかなかった。

 

※追伸

帰りに公式図録(232ページの豪華版!1冊3,000円也)を購入したら、めちゃカバンが重くなった。
非力な方はちょっとお持ち帰りが辛いかも。。。

 

フェルメール展

2018.10.5~2019.2.3

上野の森美術館 日時指定入場制