しまなみ海道 夏紀行 ⑦

「こんにちは~」

突然、鮮やかな色のサイクルウェアに身を包んだ、女性のサイクリストに挨拶された。

とっさのことで返答できなかったが、

「ふ~ん、サイクリストはお互いすれ違う時に挨拶を交わすのがルールなんだな。」

まぁこちらをサイクリストと認識してもらえたのが、ちょっと嬉しい気がした。

これから他のサイクリストと道で出会ったらきちんと爽やかに挨拶しなければならない。

 

穏やかな海風に包まれながら、海岸線を疾走したり、自転車を降りて歩いたりしながら、やっと次の伯方・大島大橋の入口にたどり着いた。

ここを渡れば伯方島に入り、今夜はそこにある民宿に泊まる予定になっている。

1キロちょっとの短い橋を渡り、本島に入ると駅の道で休憩を取ることにした。

もう全身汗でびしょびしょで、リュックの裏側も汗を吸ってしっとりと湿っている。とにかく今は体の水分が極度に不足している。

売店で『伯方の塩ソフトクリーム』を買って、むしゃぶりついた。

『あ~うまいなぁ』

これまでにこんなにアイスが旨いと思ったことはないかも。

しばらく休んだ後、売店のおばさんに民宿までの道を教えてもらって、再び走り出した

時間はすでに17時を超えている。

「暗くなるまでに着けるかなぁ。」

山道を登ったり、下ったりしながら走ること30分、やっと民食「うずしお」にたどり着いた。

伯方島で泊まった民宿うずしおさん

 

玄関を入って呼び鈴を押すと、40代くらいのおばちゃんが愛想よく出てきた。

『いらっしゃいませ。 お客さん、自転車?あらぁ~暑い中ごくろうさまでした』

2階の6畳ほどの客室に案内され、荷物を置くや否や風呂に直行する。

これほど「風呂に入りたい」という欲求に駆られたことは、これまで記憶にない。

 

浴場に入り、勢いよくシャワーの湯を浴びた途端に強烈な刺激に襲われて体が硬直した。

お尻の肛門の両側から内腿にかけて、じんじんと沁みるような激痛が走る。

『あちゃぁ~、お尻が自転車のサドルに擦れて、肛門の周りの皮膚がズル剥けになったんちゃうか? これはえらいこっちゃなぁ。。。』

完治するまで当分苦しむのかと思うと、急に憂鬱になってしまった。

風呂を出たあと、6時半に1階の食堂に降りていくと、すでに夕食の準備が整っていた

 

『ありゃ、ひょっとして客は僕一人ですか?』

『そうなんですよ。ちょっと寂しいけれど気兼ねなくゆっくりしてくださいね。』

おかみさんによると、今日はちょうど3連休前の谷間で、次の日から予約は満杯、いったい何人のお客さんを断ったかわからないくらい予約の電話が殺到したらしい。

しかしまさか今日の客が俺一人とは思わなかったなぁ。

とりあえずキンキンに冷えた瓶ビールをグラスに注ぐと、一気に飲み干した。

テーブルの上には、新鮮そうな刺身やサザエの壺焼きやメバルの煮つけやらが並んでいる

『今日は死ぬほど歩いたから、腹減った』

飲み物を冷酒に切り替えて、新鮮な魚介をむさぼるように食べた。

翌朝は7時に朝食を用意してもらい、8時には宿を出発した。

まだ距離的には全体の四分の一くらいしか走っていない。

今日は本格的に走って、予定では14時までに尾道に到着しなければならない。

昨日の走行だけで、腰と腕がとっても痛く、

背中のリュックがずっしりと重く感じられるしかも朝から強い陽射しが、疲れた身体を容赦なく照りつけてくる。

「気が遠くなるほど、先は長いで。。。」

まだまだあるで、先は長い。。。

 

(しまなみ海道 夏紀行 ⑧に続く。。。)