『悪いヤツほど出世する』 ジェフリー・フェーファー

組織におけるリーダー及びリーダーシップについて論じた書籍である。
極めて直接的だが、ちょっとインパクトのある邦題に惹かれて読んでみた。

著者はスタンフォード大学ビジネススクールの名物教授で 経営学、特に組織行動論で数々の賞を受賞し、一流大学の客員教授を歴任し、講演やテレビ出演で多忙を極めているらしく、世間からは「皮肉屋」と見られているが、当人は「自分はリアリスト」と反論し、データに基づいて、希望的観測や非現実的な期待や建前論を次々に打ち砕いていく。

まず本書の冒頭から現在のリーダーシップ教育産業のダメさ加減を糾弾する。

これだけ多くの時間と資金が投入されている巨大産業であるのに、

「良いリーダーはわずかで悪いリーダーが多すぎる」

「リーダーシップ教育産業はリーダーシップ開発、次世代リーダー育成に失敗している」

と指摘する。

それはなぜか?

それは会社の利益とリーダー個人の利益のトレードオフを理解していないからで、

「多くのリーダーは「組織を機能させる使命」よりリーダー自身の利益(権力の強化拡大)を優先する」

「リーダーの行動と職場の結果の因果関係はほとんど実態調査が行われず、リーダーはそれについて責任も問われることはない」

「リーダーシップを教えるのに知識も経験も資格も必要がない、参入障壁がない」

「きちんと業績やキャリアを検証され、効果を計測し数値化されることのないリーダーが、堂々とリーダーシップを教えている。そこで提供されるのは事実ではなく恣意的に作り上げられたストーリーで全く信用できない」

そんないたずらにカリスマリーダーについての感動体験を押し売りをするような教育を信用するのではなく、自らきちんと多くの情報源に当たり、事実を把握するべきであると強調する。

それほど巷間で喧伝されているリーダーの語るリーダーシップは虚飾に満ちていると、著者は繰り返し強調するのである。

たしかにフェーファーが「皮肉屋」と言われる理由が理解できるような気もするが、多くの人が騙されていたり目をつぶっている「真実の実態」を赤裸々にしているということだろう。

そのうえで、一般的なリーダーが備えていなければならないとされる、「謙虚」「誠実」『信頼』「思いやり」といった要素についても辛辣な警鐘を鳴らす。

『謙虚』についてフェーファーは断言する。

謙虚なリーダーというものはめったにいない。リーダーはナルシスト型の性格が極めて多い。なぜなら人はナルシシズム、自己宣伝、自己顕示欲というものがなければ出世の階段を上がりにくい。そして一旦トップの座についてしまったら今度はその座を維持するのにもより多くの報酬を獲得するのにもナルシシズムは大きな効力を発揮する」

「ナルシスト型の人間は外交的で自信に満ちており、潜在的リーダーシップスキルを備えているとみなされてリーダーに選ばれやすい」

よって著者は言う。

「リーダーシップ本でどれほど謙虚さが重視されようと、現実の世界でキャリアアップに役立つのは自己宣伝や自己主張である」

また、「リーダーは素の自分を出すより自分らしさを抑えることの方が大切である。リーダーは部下や支持者や社会が求めるような人間であること、その時々で求められるような行動をとることが必要なのであって、自分の本性に従うべきではないというのが現実である」と説く。

まぁこれは自分の長い会社員経験を通して思い返してみても、けだし至言だと思う。

私もこの精神に徹することができていれば、もうちょっと出世できたのかも。。。(涙)

 

『誠実さ』についての発言も同様に、

「ありとあらゆる種類の組織で大勢のリーダーが嘘をついている」

「リーダーが度々嘘をつくのは、めったに罰せられないからである」

「権力を持った人間ほど頻繁に容易く嘘をつく。露見しても自信を持って釈明する。権力を持った人間ほど嘘が通りやすくなる」

「確信をもって繰り返し嘘をついているうちに嘘は真実になる。それが真実であってもなくても、社会的に真実として通用するようになる」

 

もうここまでズバズバ言われると、読んでる方の気が滅入ってくる。

世の中の多くの人間が権力に魅せられ、それを得るために様々な出世競争や争いをするのは、そのなかにある「甘い果実を手に入れたいがためである。

改めてその果実の魅力の大きさを痛感させられる。

「リーダーに信頼はいらない。組織にとって信頼が必須条件だという主張は成り立たない」

「大抵の人には、地位の高い人と仲良くして自分も引き上げてもらいたいという下心が、信頼を裏切って権力を手にした人への嫌悪感に勝ってしまう」

「リーダーが約束を破ることが自己利益に適うなら、多分その約束は破られる。しかもそれで罰を受けることはめったにない」

そのとおり、信頼はリーダーにとって重要な資質だが、大方のリーダーも組織も信頼が欠けている。

『思いやり』に至っては、

「大半のリーダーは「社員第一」ではなく、「我が身第一」」

「リーダーと部下の間で共有するものがない中で、誰が社員を第一に考えるのか?」

「しかし人は仲間外れにされることを恐れ、強力なリーダーのいる集団に所属しようとする。リーダーを批判的に見ず無条件に信頼しがちで、リーダーの本質をしっかり見ようとしない」

あぁ、リーダーもだめなら、部下もダメだ。どっちもどっちだ。

ここまで来たら、もうどうしようもないのかという無力感に苛まれる。

何となく気付いてはいたが、我々はキレイごとは通用しないドロドロした人間模様の渦巻く世界に来ているのだ。

そして著者は人間であるリーダーの大半が「ダメな者である」と断罪したうえで、後半で読者に幾つかの対処法を提言している。
決してはやりの華々しいリーダーシップストーリーに騙されてはならない、勇気を持って真実に向き合いなさいと強く警告するのだ。

現代のリーダーシップ教育産業が作り出した甘いサクセス寓話を木端微塵に叩き潰すような現実的で小気味の良い作品である。

ぜひご一読を。

悪いヤツほど出世する 単行本(ソフトカバー)