おひとりさまのススメ

世の中には、「一人で外食できない」という人がけっこういる。

私の友人の中でも何人かそういうタイプがいるが、どちらかというと年輩のオジサンに多いような気がする。

このタイプは厳密に言えば、文字通り「絶対に一人では外食できない」レベルから、「あえて進んで一人では外食しようと思わない」といったレベルまで、程度に差があったり、ランチは一人でもOKだけれど、お酒を飲む場所はダメとか、人によっていろいろハードルの種類が違う。

まぁなんにせよ、多かれ少なかれ独りでそういう飲食する場所に出向いて、ある程度の時間を過ごすという行為が何となく落ち着かない、間が持たないということだろうか。

一方最近は若い女性でも、客がオジサンばかりでさぞかし入りにくいだろうと思われるような店に堂々と一人で入店し、すっかりその場になじんだ佇まいで飲食を楽しみ、後にその詳細なレポート記事をブログに上げているような猛者も多い。
独りでは気おくれしてしまう情けないオジサンと比べると、何とも逞しい限りである。

如何せんかくいう私もランチであろうが飲み屋であろうが、圧倒的におひとりさまでの訪問が多い。
(理由は単純で、同行してくれる友だちが少ないからである。。。)

定食屋、すし屋、フレンチレストラン、スナック、キャバクラなんでもござれ、全く知らない店でも平気である。

食べ歩いて美味いものを発見することに喜びを感じるので、雑誌やネットで見かけて良さそうと思ったお店は、出来るだけ訪問するようにしている。

ただ狭苦しい場所が苦手なので、すごく混雑していて窮屈な思いをしなければいけない時は入店を避ける場合もある。

ある程度ゆったりくつろいで飲み食いできることが、私の唯一絶対の条件である。

と、エラそうに言ってはみたが、実は私も若いころは独りで外食するなんて考えられなかった。
(まぁ実際のところは誰も私のことなんか見ちゃいないのではあるが。。。)

何を隠そう子供の頃から極度の人見知りで社交性ゼロ(というかマイナスのレベル)、おまけに自意識過剰で、独りで外食するなんて、裸で衆目に晒されている気分で耐え難いほど恥ずかしく、落ち着かない事このうえない。

なにしろ高校生に入って、なかなか友達ができず、どうしても教室で独りで弁当が食えないので、箸を付けずにそのまま家に持ち帰ったことがある。
対人関係の構築において性格的にかなり重症で、母親も心配していたらしい。

もっとも今時でも、他者と関われず、しかも自分が孤立しているのを見られるのが嫌で「便所飯」する若者が問題視されていると仄聞するから、そういう性格の人間はいつの世も一定数存在するのだろう。

しかしそんな私でも歳を取るにつれて段々図太くなり、それなりに治癒したのだから、要は練習である。

場数を踏むうちに、自分が孤独であることを恥じる気持ちから、「孤独を楽しむ」という境地に至るのである。

一人酒の魅力を他人に語るのは難しい。
ただ言えるのは、大勢の仲間と会食するのも、気の置けない親友とさしで飲む酒も楽しいが、都会の隅のさびれた居酒屋のカウンターでしみじみ一献傾けるのもまた何とも言えぬ趣がある。

せっかくの人生、両方楽しまないともったいないということだ。
もし今まで一人酒と疎遠だった方は、今度仲間と飲んだあと、その酒が入った勢いでぜひもう一軒トライしてほしい。

誰に気兼ねすることも媚びることもなく、ただ酒肴と向き合い、自分自身と対話する。
何物にも代えがたい、泰然と流れる時間だけがそこにある。

そんな至高の時間の中に身を委ねる幸福を大事にしたいと思う。