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『崎陽軒』の比類なき魅力

いつの頃からだろう、時々無性に「弁当」を食べたくなる時がある。
と言っても、毎朝やさしい奥様が持たせてくれる愛妻弁当ではなく、またコンビニ弁当や持ち帰りの弁当でもない。
いわゆる「駅弁」である。

私は独り者なので基本的に外食派なのだが、いつの頃からか時々ふらっと駅の弁当売場に立ち寄って好きな駅弁を買って帰るようになった。
うちで芋焼酎のロックをチビチビやりながら駅弁をつまむのが楽しみの一つになっている。

以前は東京駅などの大きな駅弁売場に行って、全国のいろいろな種類のご当地弁当を買って食べ比べしたりしたものだが、今ではそれもすっかり飽きて、ここ最近は買うものが大体固定してきた。
そして、その筆頭が横浜創業の「崎陽軒」の弁当である。

現在の崎陽軒のシウマイ弁当は1954年に販売が始まり、発売当初の値段は1つ100円、標準的な駅弁に比べて少し高めで贅沢な駅弁だったらしいのですが、添加物なしで「冷めても美味しいシウマイとご飯」が評判になって大人気になったそうです。
そんな老舗のシウマイ弁当は、駅弁市場が右肩下がりの中で、2017年の売上高は過去最高を更新するほどの勢いとのこと。
確かにシウマイ、焼き魚、かまぼこ、鶏唐揚げ、玉子焼き、あんず、千切り生姜と切り昆布といった具材で、これと言ってすごく贅沢なものが入っているわけではないが、なぜだか妙に懐かしく味がする。

私は崎陽軒の弁当の中では「幕の内弁当」が最も好きなのだが、その内容が「俵型ご飯(小梅、黒胡麻)、 赤魚の照り焼き、 とんかつ、海老フライ、鶏の唐揚げ、筍煮、 煮物(人参、里芋)、 昔ながらのシウマイ3個、 蒲鉾、 玉子焼き、 香の物」という充実のラインナップで、お酒のつまみとしても最高で、食べ応えも十分なフルコースである。

崎陽軒『幕の内弁当』

そしてこのディナーが一個税込1,050円で味わえるのである。
ただ人気があるためか店頭で売り切れていることも多く、「幕の内弁当」が手に入らないときは、定番の「シウマイ弁当」を求めて帰ることになる。
まあ私は「シウマイ弁当」でも十分満足できるのであるが。。。

また、シウマイ弁当の美味さを語るとき、その理由の一つに「経木」が使われていることがよく挙げられる。
(「経木」とは弁当のフタに使われている主にヒノキや松を削って作られる薄い木の板のことを言う。)
その経木の特徴は吸水性と通気性が良いということで、暖かいお弁当をそのままにすると水分が出て味や風味が落ちてしまうのだが、経木が弁当内の水蒸気を吸収して水分を逃がし、味と風味を保つ役割をしているらしい。
さらに経木には抗菌効果もあるらしく、容器に使用する事によって清潔にお弁当を食べることが出来るとのことで、昔の人の知恵はやっぱりスゴイと感心させられる。

現在の駅弁は海鮮弁当や焼肉弁当などけっこう値段の張る豪華な素材を使ったものがもてはやされているようで、情報サイトの駅弁人気ランキング等にもそういった弁当が多数ランクインしている。
私も以前は人気駅弁をいろいろ試してみたが、確かに良い素材そのものは大層美味である。
しかし弁当としては味が単調で、おかずも少ないため飽きてしまうことが多かった。
要は「何回も繰り返し食べたい」とは思わないのである。

その中で崎陽軒のバラエティ豊かな味わいとコストパフォーマンスには特筆すべきものがある。
なぜだかわからぬが「腹が減ったな」と思った時にはいつも、あのホタテ入りのシウマイと、もちもちの俵型のご飯が、脳裏にふと浮かんでくる。
そして気が付くと例のごとく、いつもの駅の売場に足が向いているのである。

だんくろー

ごくごくフツーの会社員。 仕事はほどほどに、Sax演奏、一人旅、飲み歩き、歌舞伎鑑賞、読書をこよなく愛す。 老後は「旅をするように生きる自由人」になるのが夢。

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